アルバニアの作家で欧州では有名らしいが、図書館にあったので何となく読んでみた。舞台は第二次世界大戦前のアルバニア北部山岳地方のようだ。ここに住む人々は「掟」に従い生活しているが、それは復讐を是認している。ある家の者が他の家の者を殺害したとすると、血の負債を返済させるために、殺された家の者は殺した者もしくはその家の男を殺す。いつまで経っても終わりはなく両家で殺し合い続ける。面白かった『掟』はこんなもの。
・殺害した者は殺害された者の葬儀に出席しなければならない。
・殺害した者は休戦を申し出れば24時間は攻撃されない。
・更に長期の休戦を申し出て要請が受け入れられれば30日間無事だ。
・殺害された者のシャツは、その家の塔に掛けられる。血の染みが黄色くなり始めたら、それは死者が復讐を待ちわびている印だそうだ。
・殺害者は袖に黒いリボンを付ける。
・殺害した者は大公の城に赴き、血の税というものを支払わなければならない。
・血の税はなぜかすぐに受け取ってもらえず数日間待合室で待たされることもある。その間食事が出る。
・血の税は大公の收入の過半を占める。殺人が多ければ大公は潤うわけだ。
・30日の休戦後はいつ攻撃されるかわからないので、窓もない塔に閉じこもって過ごす。外に出るのは夜間だけだ。
すごい想像力だ、面白い設定だな、これゲームにしたらいいんじゃないの、とか感じながら読んでいた。訳者あとがきにはギリシャ悲劇から着想を得たのでは?と書いてあって、そうなのかと思った。
ところがアルバニア北部山岳地帯というのがどんなところか知りたかったので、ネットで調べていたら、この地域で復讐が実際に行われていたことがわかり戦慄した。訳者の方はフランス文学専門でアルバニア文化には不案内なのだろう(原文はアルバニア語だが、日本語版はフランス語翻訳本からのもの)。
日本にアルバニア研究者というのがあまりいないようだが、九州芸術工科大学(現九州大学)の山本和彦さんという先生が以下のように書いている。
第二次世界大戦後にホッジャ政権が成立するまでやっていたようだ。
更に驚いたのが、労働党(最後は社会党)が政権を失った92年以降、この復讐が復活しているとのことだ。ビデオ(AFP制作)を見ると三千人が殺されたとある。
日本語Wikipediaにもジャクマリャという血の復讐についての項目があり、隠れるための陰鬱な塔の写真が載っている。
なんてことだ。欧州最貧国の一つとはいえ、いまだにこんなことをやっているとは信じ難い。この小説に出てくる『掟』も空想の産物ではなく、現実に行われていたことなのではないか。山本和彦さんが15年ほど前の『情況』に寄稿しているようなので探して読んでみたくなった。
